『銀河鉄道の夜』の文選シーン

 宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』には,ジョバンニが学校の帰りに「活版所」で働くシーンが出てきます。ジョバンニの仕事は文選(ぶんせん:原稿にしたがって活字を順に拾う作業)なのですが,次のように書かれています。
ジョバンニはその人の卓子(テーブル)の足もとから一つの小さな平たい函(はこ)をとりだして向うの電燈のたくさんついた、たてかけてある壁の隅の所へしゃがみ込むと小さなピンセットでまるで粟粒ぐらいの活字を次から次と拾いはじめました。
『新編 銀河鉄道の夜』,新潮文庫,括弧内筆者
 ピンセットで拾う,とありますね。しかし文選はふつう素手でやります。親指と人差し指で挟むように拾っていきます。ピンセットで拾うと,柔らかい活字の字面(じづら)を傷つける恐れがあるので,決してしないそうです。なお,組み上がった版を修正する際にはピンセットも使います。
(mich 2001/1/23)