英語を読む

最終更新日:2008年10月7日
組版・印刷関係の英語の文献を読むためのささやかなガイド。
2年半ぶりに改訂。「要注意単語」に register を付け加えた。

いろんな辞典参考書要注意単語参考文献

いろんな辞典

 英語の文献を読むためには,一般的な英和辞典だけでは足りないことが多い。専門用語を多く収録した大型の英和辞典や,タイポグラフィー,印刷などの専門用語辞典を持っておくと便利だ。

英和辞典

リーダーズ英和辞典 第2版』,研究社(1999)
27万語。印刷・タイポグラフィー用語もかなり収録されており,専門用語辞典にも載っていない単語の情報が得られることもある。19万語の補遺版『リーダーズ・プラス』や,これらを合わせて収録したCD-ROM版もある。
ランダムハウス英和大辞典 第2版』,小学館(1993)
34万5000語。Random House Dictionary of the English Languageを元にしたものだが,見出し語3万語を追加。

専門用語辞典(英語)

Glossary of Typesetting Terms,シカゴ大学出版局(1994)
比較的平易な英語で主要な組版用語が解説されている。

専門用語辞典(日本語)

日本語の用語辞典でも,見出し語の横に英語が併記されているものが多い。これらの辞典は英語索引が付いているので,英語から引くことができる。しかし,あくまで日本語が中心であり,英語から引いたときに,期待とは違う訳語しか得られないこともある。
日本語の専門用語辞典として,ここでは規模の大きい1冊を挙げるにとどめる。
『印刷事典 第五版』,印刷朝陽会(2002)

用語集のついた書籍

書籍の巻末にちょっとした用語集(glossary)がついていることがある。ここでは用語集のついた英語の書籍を挙げる。
The Chicago Manual of Style, 14th ed.,シカゴ大学出版局(1993)
付録に用語集が付いている。範囲は組版のほか製本や編集関係も。第14版では500語程度だったが,第15版は筆者未見。
The Elements of Typographic Style, version 2.4,Hartley & Marks (2001)
付録に組版・書体関係の百数十語の用語集がある。収録語の選択は個性的。別の付録に記号類の名称とその解説があり,これも有用。

インターネット上の用語辞典

英語で引ける組版・印刷関係のインターネット上の用語辞典で,十分な分量と信頼性を持つものは筆者は見つけていない。moji > リンク集 > 用語集 にいくつかのネット上の用語集を挙げた。
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参考書

英語正読マニュアル』,村上陽介 著,研究社(2000)
誤読を避けて英文の意味を正確に読み取るための方法を豊富な実例に基づいて解説。組版に関わることも書かれているが,やや正確さに欠けるので,英語組版の参考書ではなく,あくまで英文を読むためのガイドとして使ったほうよい。
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要注意単語

 学校で習った英単語の知識で読もうとすると,間違った意味にとってしまいそうな専門用語がいくつかある。組版・印刷・編集関係で,そんな要注意語を集めてみた。正確な語義は辞典で確認されたい。
 なお,ここで挙げた語義はあくまで英文を読むためのものであって,これを英作文に用いると適切な英語にならないことがある。
copy
写し,複写といった意味のほか,広告文案,(印刷用の)原稿,新聞ダネなどの意味がある。また,書籍などの部数を数えるのにも使う。
five copy of the book:その本5冊
a fair copy:清書
column
新聞・雑誌の囲み記事の意味で「コラム」として日本語化しているが,そもそもは段組における段の意である。段間罫(段罫)は column rule である。ほかに,表組みにおける「列」(縦一筋)の意もある。ちなみに表組みの「行」は row という。
cover
英語のcoverは,カバーではなく表紙のことである。日本語のカバーは英語ではjacketという(dust coverという言い方もある)。
digit
組版用語では,指標 のこと。この意味では printer's fist(または単に fist)とか index ともいう。
editor
編集者・編集主任のほかに校訂者という意味もある。
face
活字の字面や,版面,書体(typeface)という意味がある。
facsimile
電話回線で画像を送受信する装置としてお馴染みだが,もともとは複写,複製といった意味。古写本やインキュナビュラ(揺籃期本)などの稀覯書(きこうしょ)を本物そっくりに複製して作ったものをファクシミリ版などという。-si- にアクセントがあることに注意。
figure
組版用語では,図版のほかに数字(0-9)の意味もある。
index
索引のほか,指標(digit を見よ),上付き文字または添え字(上付きも下付きも)の意味がある。
leads
組版用語では,と読み,インテル(活字組版で,行間を空けるために挿入する鉛合金などの板)のこと。鉛という意味の lead の複数形。
転じて,欧文組版の行間(ただし現在はベースライン間距離で計るので,和文組版の「行送り」にあたる)の意。この意味ではleading ともいう。
manuscript
「手で書かれた」という意味のラテン語に由来する。「(印刷ではない)手書きの」という意味のほか,写本や原稿という意味もある。
measure
組版用語では,尺度・測定単位のほかに行長・段幅の意味がある。
offset
オフセット印刷法のほかに,印刷面に接触した物体にインキが付着するという意味もある(こちらが本来の意味)。裏移り。この意味では setoff ともいう。
operator
運転・操作をする者という意味のオペレーターのほかに,演算子(これもオペレーターと訳してよい)という意味もある。PostScript の解説書や Adobe Illustrator のファイル仕様書に出てくるなら,後者だろう。PostScript では「3 5 ADD」というプログラムで3と5の和を計算させることができるが,この「ADD」が演算子の例だ。
press
もともとは圧力を加えるという意味。恐らく圧搾機という意味から印刷機という意味が生まれた(グーテンベルクの印刷機は葡萄搾り機を改造したもの)。さらには,印刷・印刷術,出版業,印刷所・発行所という意味が派生した(活版印刷の初期は印刷所と発行所が一緒だったりした。現代でも大きな新聞社はそうだが)。the を付けて集合的に,新聞,雑誌,定期刊行物,記者,報道陣などの意味ももつ。同じく the を付けて報道機関,出版界などという意味にも使われる。イギリス英語では校正者という意味もあるらしい。
send to (the) press:印刷に回す
out of press:品切・絶版で
release [give] the news to the press:そのニュースを新聞に発表する
printer
印刷業者,活版職工,印刷機という意味がある。
reader
読者のほかに,校正者という意味もある。
register
広い意味を持つ多義語だが,印刷用語では,裏表で行などの位置が合っていることや,多色刷りで版の位置が合っていること(日本語では「見当が合っている」と表現する)などを指す。トンボは register mark である。「見当が合っている」は be in register,「見当がずれている」は be out of register。造本用語では「しおり紐」の意味もある。さらに,初期の活版印刷本に付けられていた折丁(おりちょう)記号の一覧表も register と呼ぶらしい(これがどういうものか筆者は知らない)。
rule
組版用語では,ルール(規則)のほかに罫線の意味もある。ダッシュ(―)類も rule の一種とみなされるのは日本語の「罫線」とちょっと違う。
script
スクリプト体という意味のほかに,特定の文字システムを指すのにも使われる。例えばギリシャ文字は Greek script,ラテン文字(ローマ字)は Latin script,キリル文字は Cyrillic script。それに対し,個々の文字は letter。日本語ではどちらも「文字」なので紛らわしい。
なお,script を省略して単に Greek,Arabic などと書くことがある。ギリシャ語・アラビア語なのかギリシャ文字・アラビア文字なのかは文脈で判断する。英語圏のアプリケーションソフトの日本語版で,Cyrillic を「キリル語」(そんな言語は無い)としているものがあるが,「キリル文字」の誤訳である。
また,プログラミング言語の世界では,Perl などスクリプト言語のプログラムを script と呼んでいる。これは「台本」という意味から派生したのだろう。
set
set は非常に多くの意味を持つ多義語で,専門分野ごとにさまざまに使われている。
[名詞] 活字の幅。この意味では set width ともいう。写真植字やデジタルフォントでは,仮想ボディーの幅。
文字コード用語の character set は文字集合(文字セットとも)。
[他動詞] 文字を組む(植字する)。
set up は文字を組むほかに製版するという意味も。
set out には字間を空けて組むという意味がある。
[自動詞] 活字がある幅を占める。
また,一般に,流動性のあるものが固まるという意味があるが,印刷インキについていう場合は「印刷されたインキのビヒクルの一部が紙に浸透し,インキ膜が流動性を失い,摩擦すると汚れるが,粘着性は示さなくなる」こと(『印刷事典第五版』)。
type
活字。

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参考文献(このページを書くために参考にした書籍など)
  1. 『印刷事典 第五版』,印刷朝陽会(2002)
  2. Glossary of Typesetting Terms,シカゴ大学出版局(1994)
  3. The Chicago Manual of Style, 14th ed.,シカゴ大学出版局(1993)
    ※2008年10月時点での最新版は 15th ed.
  4. The Oxford Guide to Style,オックスフォード大学出版局(2002)
    ※2008年10月時点での最新の後継本は The Oxford Style Manual
  5. The Elements of Typographic Style, version 2.4,Hartley & Marks (2001)
  6. 英語正読マニュアル』,村上陽介 著,研究社(2000)
  7. リーダーズ英和辞典 第2版』,研究社(1999)
  8. ランダムハウス英和大辞典 第2版』,小学館(1993)
  9. 『ジーニアス英和辞典 改訂版』,大修館書店(1994)
    ※2002年10月時点での最新版は第3版。